鍼灸の実技: 第Ⅱ章 きゅうの実技

鍼灸の実技:序・目次


第Ⅱ章 きゅうの実技


第1節 有痕灸の実技


有痕灸は皮膚に直接艾炷ををつけて、線香の火を移せばよいようなものだが、これも厳格にいえば、矢張り練習がいる。
 皮膚につける艾炷の撮み方、作り方、皮膚につけるつけ方、線香の火の移し方、燃焼中の注意、焼えた灰の処置の仕方等について一応練習しておく必要がある。

1.艾炷の撮み方、作り方

 散艾を左手で持つ。この際、余りたくさん持たぬ方が艾炷を作り易い。持ったなら、小、環、中指て落ちないようにする。艾を拇指頭と示指頭に運び(片手で行う)、指腹で、極めて軽くひねる。力を入れると千切れるから、力を入れない。まんべんなく撚り、よるようにする。この撚りようにコツが要る。示指腹の上を拇指腹が往復するようにひねるのである。これをまんべんなくやっていると、示指の指尖に拇指を移すと艾が両指の間にかくれるが、示指の第1節と第2節の関節部に移すと、文の尖端が拇指と示指の分れ目に出る(拇指と示指が交叉するようになる)。出た艾を右手の拇指と示指又はピンセットで撮み、皮膚につけるのである。乾燥している皮膚には着かないから、皮膚面をあらかじめ濡しておく。濡すものはアルコール、クレゾール水、などの消毒薬が適当である。
 艾炷の大きさは糸状艾炷、半米粒大、米粒大、小豆大、大豆大などがある。糸状艾炷は米粒大の約1/8位の大きさで、丁度、木綿の裁縫糸位の太さにする。つけるにはピンセットが最適である。半米粒大以上は一定の形に作るように練習せねばならぬ。その形は、a.同じ高さ、b.同じ直径、c.同じ重量、d.同じ硬さ、e.同じ底面をもった、円柱状、円錐状、(ピラミット形)、につくらねばならぬ。
 つくる速度は、米粒大て一分間に60個を標準にする。たれて来れば100個近く出来るものである。昔は"瀉には硬くひねり、"補には、極く軟かくひねったものである。

2.艾炷を皮膚につける仕方

 艾炷を乾燥した皮膚につけようたってむりである。最初は皮膚を濡らしておくか艾炷の底を濡してつけるのである。昔は艾を舐めたものであるが、これでは不潔であるから、消毒液を浸した海綿かスポンジーゴムか指頭消毒綿に右手の中指頭又は環指頭をつけ、これを穴につけて、それに艾炷を植えるようにする。或は艾炷の底面をこれら消毒液で、しめして皮膚につけてもよい。二壮目からは燃えた灰を取らなければ(瀉の時は取るから2、3度は消毒液をつけなければならない)液をつけなくとも艾炷がつく。
 このように、艾炷をつくり、つける速度は1分間に約40個位が標準てある。油手や、汗ばんだ指では、皮膚につけようとしてもつかず、却って手指にくっつくからタルクか、汗知らずのような紛を手指につけるか、ピンセットを使用する。

3.線香の火を艾炷に移し方

 線香の火を艾炷に移すのも、またコツがある。線香の火の先に灰がついているもので火を移そうとしても、灰からは火は移らない。燃え始めのところを艾炷の頭に持ってゆくのがよい。また、艾炷につけるとき線香を廻すようにすると、線香に艾が着いて、釣り上げるような事がない。
 だから灰はしょっちゅう除きつつ、線香をまわし乍ら、火を移すようにせねばならぬ。
 また、艾炷の横ちょうから線香の火をつけてはならぬ。艾炷の頂上に移すべきである。横ちょうから火をつけようとすれば、艾炷を転ばしたりすることがある。一寸した注意だが用心しなければならない。

4.燃焼中の注意

 燃焼中の注意は、"補"と"瀉"でちがう"補"はそのまま燃焼させるか、まさに燃え終ろうとする時に、拇指と示指て窒息消火さすようにするか、灸熱緩和器をあてて、消すようにするのである。"瀉"の時は、艾の火が消えようとする時風を送って吹き消すのである。
 なお灸熱が病人に甚だしく苦痛を与えているか、いないかを察知して、艾を取る場合もある。

5.燃えた灰の処置の仕方
 "補"の時は燃えた灰をそのままにして、その上から次の艾炷を着けるようにする。"瀉"の時は、燃えた灰をいちいち除いて次の艾炷をつけるようにする。一定の艾炷を据え終ったら、いずれの場合も、よく消毒しておくことは、勿論である。


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