鍼灸の実技:第4節 弾入

鍼灸の実技:序・目次


第4節 弾入


管鍼を用うる流儀即ち杉山流においては、古来弾入について、相当研究もし系統もつけたものである。弾入は穿皮(切皮)の術であり、皮膚の刺激を与えることとなるばかりでなく、その巧拙は患者に対し、刺痛不快感を与え、不要の刺激を与えることとなるから充分習熟して、管鍼法の特徴たる無痛弾入に至らねば、鍼管を使用するの価値なしどいわざるを得ない。昔から尺八の管振り三年と同じように、皮切り3年といわれたほど、先人は意を用いて練習したものであった。

1.弾入の効用

 管鍼法は日本鍼術家の大多数が普通使用しているばかりでなく、ヨーロッパの鍼医も漸次習熟しつつある。もともと鍼管使用の目的は、皮を切破して鍼尖を、筋肉内に刺入するにあたって、刺痛を与えないというのが主要な役割であり、このために発見されたものである。従って管鍼を使っても刺痛を与えるということは、管鍼の意味がなくなるといわねばならぬ。鍼管の目的が本来無痛刺入であるのに技術の未熟なもの、又は乱暴な弾入は甚だしい刺痛、激痛を被術者に感じさせるものである。

2.弾入の仕方

 弾入の仕方は刺鍼抜鍼同様、気海丹田に力をこめ;(呼気たりとも腹力をゆるめぬようにする)端正、体づくりをなし、調息、静志して行わねばならない。 普通は鍼管頭上にある鍼柄頭を垂直に術者の指頭があたるよう配慮して行う。術者の肘をはり、肩関節、肘関節、手関節、指関節は動作に対して、よく統制がとれ、正しく指頭をして、鍼柄頭にあたるようにすべきである。弾く指の運手については、(1)示指を中指頭背にのせ、弾力をつけて、鍼柄頭を弾くか、(2)示指を単独に他指より離して弾く。示指の力は上肢全体の関節の統制のとれた運動によって、鍼柄頭を弾くようにする2方法がある。いずれにしても鍼柄頭に接触する指頭の面が、垂直になるようにせねば力が損するばかりでなく、不合理な打カとなることはまぬかれない。回教も1回の打力で弾き入れることも出来るが、普通は数回に分けて打力を与え弾入するのが常法である。故吉田弘道先生はタン、タタンタン、タンタンと初め弱く、次に少し強め、終りやや強めに弾入するように教えていた。弾入も刺激である以上、刺鍼の目的によって方法に差異あることはいうまでもない。古法では《浮水六法》の法を練習したものであった。

3.正しい弾入、誤った弾入

 弾入の仕方でのべたのが、大体において正しい弾入の方法と考えてよい。次によくある弾入の仕方について、その正誤をのべてみる。
1)垂直に打力を与えず、傾斜の位置から与えると打力に損ばかりでなく鍼管内で鍼体が歪み、痛みを与えることが多い。
2)ドシンドシンと叩打することは痛みを与える。
3)弾入の強さが大なれば痛む。
4)弾入の強さが弱ければ痛む。
5)弾入の速度が適当(被術者の感覚)でなければ痛む。
6)弾入の打力が鍼体の弾力より強いと痛む、そればかりか、鍼体が曲る。打力の力は鍼の弾力よりやや弱いのがよい。従って鍼の番号(太さ)によって、弾入の強さを加減せねばならぬ。
7)弾入に際して、上肢を硬くしてはならぬ、上肢全関節を柔軟にし、弾みをつけて調子よく行わねば痛む。
8)鍼柄頭を弾く場合、弾き下す速度より上げる速度を早くせねば痛む。
9)術者の股に左手を平に伏せおき、右手をもって、左手を弾いてみて、股に感ずる感覚が打力を受けた部より、周囲に広く感ずるようては痛む、周囲に感ぜず、深部に達するようなのがよい。
10)弾人の際、弾く指頭に甚だしく硬物を感ずるようなのは刺痛を感ずることが多いので、弾入を中止すべきである。

4.浮水六法

 杉山真伝流では弾入の方法を緩、遅、数と軽、重を組合せて浮水六法と称した。
1)遅とは二息(2呼吸)に1回の速度をもって弾くことで凡そ4回行うことである。
2)緩とは一息に3回の速度をもって、5回で弾入する方法である。
3)数とは一息に7回乃至12回位の速度て6回で弾入する方法を云う。
4)軽とは陽と云うことであり、軽やかに弾き入れると云うことで、弱い打力を意味する。すばやい。
5)重とは陰ということであり、重やかに弾き入れるということで、強い打力を意味する。鈍重である。
 以上の遅、緩、数、軽、重が組合って、軽遅、軽緩、軽数、重遅、重緩、重数の方法となるのである。これらが《杉山真伝流》の90鍼術におのおのついている。例えば随鍼術では押手平円浮水軽緩、乱鍼術では押手平円浮水軽緩、細指術では押手平円或は曇り立、浮水軽緩又は重数、屋漏術では押手平円浮水重緩、気拍術では押手平円浮水軽緩などとあるようなものである。これらは刺激の目的を達するためにその刺激を与える。前行列激として役立たせたもので、病者の体質、感受度、身体部分の感覚の鋭鈍の相違、病疾、などによって当然臨床上、考えられたものであった。


註1 弾入せざる切皮法
 故小西常太郎氏は鍼の名手として大阪に名声があったが、氏は管鍼法を使って弾くがごときは、叩き大工の類なりと称し、管鍼法の定法としての鍼尖松葉型をやめ、これよりもやや鋭利に、那智黒なる石材にて鍼尖を研磨し、鍼管頭にある鍼柄を押えるのみで、切皮していたが、無痛で切皮できるものである。これによって、鍼尖と鍼管の関係の密接なる関係のあることが推知できる。